ある施設の日常?

〜 無駄筋肉 〜

72 行 2026/06/21 09:44

 同僚には、この筋肉が無駄に見えるようだ。
 俺も、無駄だと思う。

 養護施設の職員には必要がない。解っている。解っているが、トレーニングを辞めるという選択肢は、俺にはない。

「先生!」

 当直で、寝ていた俺は、同僚の声で起こされた。

「どうしました?」

 時計を確認すると、時間は22時を少し回ったくらいだ。交代時間までは時間がある。

「交代では、ないようですね」

 もう一人の寝ていた同僚も起こされています。

「子供が、年長組が施設を抜け出したようです」

 確かに、慌てるには十分な理由ですが、それほど心配をするような事でもない。

「それは・・・」

「解っています。先生。これを見てください!」

 年長組が使っているノートだ。
 ノートには、”本屋のおばちゃんの仇を討ってくる”と書かれていた。

 本屋のおばちゃん。俺もお世話になった人だ。
 数日前に殺されてしまった。施設に、本だけではなく、ぬいぐるみやおもちゃを持ってきてくれる。商店街の会長をしている旦那さんと一緒に、殺された。

 子供を連れ戻さないと・・・。

「他には?」

「わかりません」

「抜け出したのは?」

「年長組の全員です」

「は?」

「全員です」

 それなら、この時間なら子供は目立つ。

「わかった。俺が外を探す」

 施設では、手伝いで残っていた人も協力してくれて抜け出した子供を探す。

 門から外に出ると、年長組が男性と話をしていた。

 走り寄り、男に頭を下げると、手を上げるだけで、名前も告げずに振り返って歩いて行ってしまった。

「お前たち!」

「無駄筋肉!」

「ほぉ。覚悟が出来ているようだな」

 体罰はダメだと言われているが、約束を守らなかった者たちには、しっかりと罰を与えて、終わりにする。
 俺の考えだ。

 頭を軽く殴ってから、連れ戻す。
 そして、皆に頭を下げさせる。

 理由を知ったから、あまり怒れない。俺たちも同じ気持ちだ。

 俺の筋肉は、今回も役に立たなかったが、子供たちを無事に連れ戻せたから良かった。

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