21年目の真実

140 行 2026/06/21 09:40

”トゥルル トゥルル トゥルル トゥルル トゥルル トゥルル トゥルル”

 今日も聞こえてくるのは、”彼”を呼び出すコール音だけが虚しく心に響く。21回目のコール。

 彼と交わした約束。
 私は、彼を待ち続ける。

 1週間後の太陽が昇れば、彼が私の前から消えた彼の誕生日から、21回目の朝になる。

 彼は、私が、彼が、一人になってしまった日に、一緒にいると言ってくれた。
 そして、初めて合わせた柔らかい唇。彼も私も照れくさかった。
 高校を卒業して、私は地元に就職した。彼は、都会の会社に就職した。
 彼が都会に彼から、突然呼び出されて、渡された電話番号。彼と交わした短いキス。彼と交わした二人だけの約束。

 必ず帰ってくると言ってくれた言葉。
 翌年の私の誕生日には、彼は花束を持って帰ってきてくれた。初めての朝を二人で迎えた。

 彼は、日が昇ってからも寝ていた私を優しく起こしてくれた。
 二人で食べる初めての朝食。彼が焼いてくれた端が焦げた目玉焼き。私が淹れた少しだけ濃くなってしまった珈琲。何もかもが、新鮮で輝いて見えた。二人で笑いあった朝が、確かに存在していた。
 彼は、何度も何度も、私の家に来てくれた。大学の長期休みを利用して滞在してくれた。
 私は、彼以外には何も存在しない。両親も、兄妹も、地球に殺された。なぜ、地球は私を家族と兄妹と一緒に殺してくれなかったのか?彼も、私と同じだ。両親を、祖父母を、妹を殺された。

 彼は、私の21回目の誕生日に家族になろうと言ってくれた。私の21回目の誕生日は、私が独りになった日。
 彼は、私に”行ってくる”と声を掛けてでかけた。

 私と彼を隔てる物など何も無いと思っていた。彼が扉から出ていくときに、私を抱きしめて耳元で呟いてくれた。

”愛している”と・・・。

 彼は、都会に戻っていった。
 閉じられた扉。

 彼が、また扉を開けて”ただいま”と言ってくれる。私の名前を呼んでくれる。

 私は、彼を待ち続ける。
 彼との約束を守るために・・・。

 もう指が覚えてしまった電話番号。
 彼と私をつなぐ唯一の繋がり。

”トゥルル トゥルル トゥルル トゥルル トゥルル トゥルル トゥルル”

 呼び出し音だけが、私と彼をつなぐ唯一の鎖。

---

 俺は、彼女のところに旅立つ。彼女と同じところには行けない。だけど、彼女に少しでも近づくために旅立つことを決めている。
 彼女が生きた21年間。俺は、彼女を思いながら過ごした。

 俺が犯した罪。

 俺は、彼女を殺した者たちを殺した。
 彼女が望んでいないことは解っている。彼女が、最後に俺に言ったセリフは”いってらっしゃい”だった。俺が戻ってきたら、家が燃えていた。彼女は、犯されて、包丁で刺されて、焼き殺された。彼女は、3回殺された。7人の男女が犯人だ。
 俺は、奴らを探して、彼女と同じように3回ずつ殺した。

 奴らを殺した俺は、獣たちを縛って、晒し者にした。法が裁かないのなら、俺が殺す。獣たちを始末した俺は、そのまま警察に出頭した。

 俺にくだされた罰は”21年”だった。恋人を、家族を殺されて、精神が異常だったと言われた。死刑でも、無期懲役でも、受け入れるつもりだった。弁護士にも、形だけの弁護をお願いしていた。ただ、弁護士の女性は、真剣に戦うことを提案してきた。無罪は無理でも、情状酌量は勝ち取れると言われたのだ。罪を償って、綺麗に身体になって、”彼女を迎いに行きましょう”と言われた。

 俺が殺した獣たちは、余罪が大量にあり、情状酌量が認められた。
 偶然にも、彼女が生きていた年数を罰として生かされる。俺は、裁判官に深々と頭を下げた。獣たちの罪を暴いてくれた弁護士に頭を下げた。検察も最後には、獣たちの罪を認めてくれた。俺は、彼女が生きた年数を独りで過ごす。

 残された彼女との繋がりは、鳴るはずがない携帯電話だけだ。

 出所する日。
 俺は、41歳になっていた。

 彼女は待っているだろうか?

 何度か面会に来てくれた弁護士が差し入れしてくれた携帯電話を手に取り、電源を入れる。彼女と、彼女の両親と俺の両親が残してくれた遺産を使って維持された携帯電話だ。無駄だと言われたが、彼女との唯一の繋がりを切ることは考えられない。すべてを無くした俺に残された唯一の鎖だ。生きている意味だといえる。

 彼女の21回目の誕生日には一緒に居た。
 それから、独りで迎えた20回の誕生日。

 明日。
 俺は42歳になる。彼女と迎えるはずだった21回目の誕生日だ。

 俺は、彼女のところに旅立つ。
 渡された電話には、着信が残されている。彼女が使っていた電話番号だ。

 最後に、彼女に電話をかけよう。
”今から帰ると・・。”
”遅くなってゴメン”

 せっかくだから、会えなかった20回の誕生日を数えよう。

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。結婚してくれてありがとう』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。初めてのキスは照れくさかったよ』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。会えて幸せだよ』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。いつまでも珈琲がうまく淹れられなかったね』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。初めての朝は寝坊したよね』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。好きになってくれてありがとう』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。笑顔が大好きだよ』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。困った顔も大好きだよ』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう、意地悪な顔も大好きだよ』

”トゥルル”
『誕生日おめでとう。愛しているよ』

”トゥルル”
”トゥルル”
”トゥルル”
”トゥルル”
”トゥルル”
”トゥルル”
”トゥルル”
”トゥルル”
”トゥルル”
”トゥルル”
『誕生日おめでとう。愛しているよ』

 君に会いに行こう。
 会えなかったときに、俺が君をどれだけ愛していたか、君に渡す21本の花束を持って、君に会いに行くよ。

 21回目のコールは聞かないよ。
 君に会えるのだから必要ない。

 君の声を・・・。夢を、一緒に・・・。

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