屋上のフェンス

30 行 2026/06/20 20:49
お世辞にもあまり奇麗でない、5F 建てのビルの 2 ~ 4 F迄を借りていた会社の話です。従業員は、100 名前後とシステム会社としては中規模程度の会社でしたが、泡が弾けた事により、業務縮小と人員整理を始めた時の事です。
とある部署が担当していた事業から、完全撤退を上層部で決めた時に、その部署の解体が決定したのです。しかし、幸いな事に、その部署の人間達は、そこそこ優秀な人達でしたので、全ての人員が他の部署に吸収される事が決まっていたのです。例外は、プロジェクトリーダだけが、その事業の将来性を見越して、独立して会社を作る事を宣言していたのです。


その部署の解体に先立って、人員整理が行われたのです。そこで、100 名居た社員を、60 名に減らすと共に、2階 と 4階の一部の返却を決めたのです。
その結果、3階の人口密度は嫌が追うにも上昇したのです。その時に、その部署の解体が宣言され、その部署の人達が別の部署に吸収される事が発表されたのです。その事自体は別に珍しい事でもなければ、理不尽な事でもなったのですが、暗い社内の雰囲気をさらに暗くする噂が流れて来たのです。
曰く『部署解体で人員を吸収した部署は、吸収した人員分、首を切る』らしい
曰く『暫く様子を見て、2ヶ月後に使えない人間の首を切る』らしい
等のどこから流れて来た情報か解らない事が囁かれていたのです。そんな時、社長から、
『次のボーナスはあきらめてくれ。頑張っては見るが、約束できない』
っと言う、夢も希望もなくなる様な話が公表されたのです。それを受けて、噂が現実に変わるだろうと、誰もが思っていた。


その噂を、心から信じて、次に首を切られるのは自分だと勝手に思いこんだ、私の同期が・・・。実際問題として、その時に、同期入社の実に 9 割が会社をやめていた。そう思いたくなるのも事実だが、私から見ても、その人物が、首を切られる必要性がない。その部署は、成長を続けている部署だし、売上も上がっている。尚且つ、部署のボスが、社長よりも権力を持つ人間で、親会社にも影響力を持つ人物だったのです。従って、その部下を不用意に首にするとはとても思えない。事実、人員整理もその部署には無縁の世界だった。実は、私もその部署に移動が確定していて、来月から移動する様に言われていた。
そんな時に、その人物が会社に呼び出されてやって来た。普段は、作業場所に居る為に、殆ど会社には顔を出さないが、その日は、同期の送別会もあり呼び出されてやって来た。そこで、部署のボスから、来月から私が部署にやってくる事と、今の仕事に不満はないかっといった簡単なやり取りを行っていた。皆の居る前でやっていることから、深刻な話しでないことは解ると思うが、ボスから見たら、単純な報告と問題があるかの確認だった。
その話が終わって、ボスが、社長に呼ばれて、席を立った瞬間、その人物が、立ち上がり、壁の方に歩いていったのです。誰もが、気にも止めない動作だったが、次の瞬間、その人物は信じられない行動に出たのです。窓枠を外して、窓の外に出たのです。そこは、4 Fでも古い建物で、天井が低い為に、それほど高くないっといっても、落ちれば無事で済むはずがない。
ガシャン
窓ガラスが、割れる音が響いた、その瞬間にその人物が外に張り出しているヘリを歩いているのが解った。既に、数m 程度歩いているのか、窓枠から手を伸ばしても届かない距離に来ている。
その時に、その人物が何を話していたのか、どんな顔をしていたのか、まったく覚えていない。覚えているのは
ぐちゃ
そう響いた、何かが道路に落ちた音とそれに繋がる悲鳴だけだった、暫くして(時間にしては、多分数分だが、2時間も感じられた)救急車とパトカーのサイレンが聞こえて来た。もう自分がどこにいて、何をしていたのかを思い出す事が精一杯で、自分の目の前で起った事を、説明する事が出来なかった。いや理解する事が出来なかった。


その人物は、奇跡的に一名を取り留めたが、身体の損傷よりも、心の損傷が激しく現場復帰は不可能と判断され、会社を去っていきました。それから、会社の窓枠には鉄格子が取りつけられて、今迄出入りが自由だった、屋上にもフェンスが取りつけられる事になった。
結局、その人物から調書は取る事ができなかったらしいので、前後の事情は想像になってしまうが、その人物は 噂 を信じて、勝手に想像した自分の未来像を、本気で信じてしまって、そうなるなら、楽になりたいと感じたんじゃないかというのが、私達の結論でした。
確かに、もう考える必要がなくなった事から、楽にはなったのだと思うが、本人以上に残された私達の事を少しは考えて行動して欲しかった。それから、暫くしてその会社は解散に追い込まれたのです。将が居ても兵隊がいなければ戦争も出来ません。そんな状態になってしまったのです。


噂は噂、そう笑い飛ばせる精神が必要ですね。自分が信じたい物だけを信じるのではなく、状況と分析が以下に大事か、また、噂を信じるにしても一方の噂や話だけでは、物事の側面しか取られる事が出来ない。そのことをしっかり認識した上で、噂話を楽しもう。

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