クリーニング屋に

20 行 2026/06/20 20:48
これは、入社してすぐの出来事でした。私の入社した会社では、入社後3ヶ月の研修期間を設定されている。この研修期間を苦しみながらもこなしていた時の頃、私は専門学校で一通りの教育は受けていたし、パソコンも所有していたので、出される程度の課題は問題なくこなしていた。
そんな中、この編の主人公 m女史 から、教えて欲しいと言われた。勿論、教育担当の先輩は居たが、専任でなかったらしく、課題を出すとそのまま席に戻って自分の仕事を行って、1~2時間周期で見に来てくれるといった事を繰り返していた。その為に、m女史は聞きたくでも聞けない状態が続いていた様である。そこで、暇そうにしている私に、解るなら教えて欲しいとの話が来たのです。
幸い、私は心が広いので、面倒だとは思いながらも教えてあげる事にした。実際、時間をもて余していたのも事実でしたので・・・。
そんな感じで、2週間がたったある日。クラス分けが行われたのです。

クラス分けの結果、私と、m女史は違うクラスになったのです。私達のクラスでは、より実践向きの課題が渡されて、教師となる先輩も殆ど付いていない状態になっていた。解らない事は、クラス内で解決するように・・・と言われていた。m女史の方のクラスは、先輩が一人付きっきりで教えている状態になっていたらしい。どこでスイッチが入ったのか解らないが、急に、m女史が私達のクラスに来て
『いいよね、出来る人達は・・・』
単なる嫌味か愚痴だと思って半分無視していたら、す~と私の横を通りぬけて、前のホワイトボードの所に貼ってある課題のプリントを全て手にとったかと思うと、破きはじめたのです。それも、虚ろな目をしながら、口も半開き状態で・・・。まだ、こんな場面に慣れていない私達は呆然と、m女史を見ていました。そして、しばらくして、m女史が、篭った笑いを始めたのです。暫く笑った後で、破いた課題表を、天井方向に投げたのです。異常に気がついた先輩方が駆け寄って来ました。その後、耳を劈くような笑い声を m女史が発したのです。暫く(多分、数秒だと思うが、この時には、永遠に終わらないのかと思った位長い時間に感じられた)笑った後で・・・
『うん。やっぱりそうだよね』
『私には向いてないよね』
そして、そこに集まった先輩や私達の方を向いて
『私、辞めます。やっぱりクリーニング屋になります。そこで、汚れた心を奇麗に洗います』
そう言い残して、その場を立ち去ろうとしたのです。
その後は、混乱が生じて覚えていません。ただ強烈に覚えていたのは、m女史がそう言い放った後で、ニヤリと笑った顔だけは忘れることなく、脳裏に焼きついて消すことは出来ません。


---後日談
結局、この後、社長や専務達が私達の所に来て、今日の出来事を説明してくれました。今になって思うと、逝ってしまったんだなぁって事は解るのですが、当時は、『何故』急に気が狂ったって事しか解りませんでした。多分、プレッシャーを感じていたんだろうな、私達が入社した年は、泡が弾けた次の年で、就職活動中は、泡真っ盛りで、全ての企業から"うちに来てくれ"状態だったのに、入ったら逆の状態になっている。そんな状況で、教育もままならない状態なら、神経が弱い人なら逝っても不思議はないですね。
m女史は、その後すぐに会社を辞めて、田舎に帰ったそうです。田舎で何をやっているのか知りませんが、先日風の便りで、地元の同級生と結婚したと聞きまして、それが本当なら、彼女は彼女の幸せを手に入れた事になるんだなぁっと、彼女が信じる神に感謝しました。

このエピソードを読者にシェアする

ポストする